投資を始めた人が気になること、それが「税金」の話です。なぜなら、投資で利益を得れば得るほど、多くの税金を払う必要が出てくるからです、特に日本では、個人が投資で稼いだ際の税率が高く、利益が大きくなればなるほど税金も多く持って行かれていまします。
ではどうすればいいのか? 税金対策の選択肢の1つとして、資産管理法人を設立する方法があります。不動産投資で収入を得られるようになった人は、節税を考えて資産運用会社を立ち上げることも検討してみてもいいかもしれません。
ただし、資産運用会社の立ち上げにはメリット・デメリットがあります。そこでこの記事では、多くの人が知らない資産運用会社設立のメリットとデメリット、立ち上げのタイミングなどをお話ししていきたいと思います。
どのぐらいの収入になれば立ち上げればいい?実際どのぐらい節税になるの?など、気になる方はぜひ参考にしてみてください。
資産運用会社を立ち上げる収入のライン
まず結論からお話ししますと、資産運用会社を立ち上げる1つの目安となる収入のラインは、課税所得900万円です。不動産投資などで収入を得られるようになり、課税所得額が900万円以上になった人は、資産運用会社の立ち上げを検討した方がよいでしょう。
課税所得が増えれば増えるほど税率は高くなる
課税所得900万円以上を立ち上げの目安のラインとして考える理由は、900万円を超えると税率がかなり上がってしまうからです。
以下は、個人に課税される所得に対する税率です。
個人に課税される所得金額 |
税率 |
195万円以下 |
5% |
195万円以上330万円以下 |
10% |
330万円以上695万円以下 |
20% |
695万円以上900万円以下 |
23% |
900万円以上1800万円以下 |
33% |
1800万円以上4000万円以下 |
40% |
4000万円超 |
45% |
(国税庁HPより引用)
900万円を超えると33%と、利益の3分の1が税金として払わなくてはいけなくなってしまいます。4000万円を超えると45%となり、約半分が税金となってしまいます。
法人の税率について
次に、法人の場合は、どのぐらいの税率になるのかをみていきましょう。以下は法人に課税される所得金額と税率です。
法人に課税される所得金額 |
税率 |
400万円以下 |
21% |
400万円以上800万円以下 |
23% |
800万円超 |
33% |
(国税庁HPより引用)
個人の場合は最大45%税金で持って行かれるのに対して、法人は最大でも33%です。例えば年間5000万円の利益がある場合、個人だと45%の2250万円が税金です。これが法人の場合1650万円となります。個人、法人と違うだけで600万円の差が出るので、これはとても大きいですよね。
収入が大きくなればなるほど、法人の方が税金面で有利なことがお分かりいただけると思います。ただし差が出るのは課税所得が1800万円を超えてからです。それまでは同じ33%なので税金面で差はありません。
法人設立は課税所得900万円を超えたタイミングで検討する
課税所得1,800万円を超えるまでは、個人も法人も税金は変わらないことをお伝えしましたが、法人設立は900万円を超えたタイミングで検討することをお勧めします。
理由は、法人には個人ではできない経費計上が可能だからです。経費として計上できるものが増えることで、結果的に節税につながるからです。
まとめると、個人投資家が法人設立を検討するタイミングは、課税所得が900万円を超えてからとなります。それまでは税金面のメリットもないので、個人でも問題ないと思います。
個人(投資家)・法人(資産運用会社)の違い
税金面で税率に差が出ることをお話ししましたが、ここで個人と法人との違いを改めてみておきたいと思います。以下が、個人投資家と、資産運用会社など法人との違いになります。
比較項目 |
個人 |
資産運用会社 |
税率 |
5~45%※ |
21%~33%※ |
経費枠 |
経費として認められる範囲が狭い |
経費として認められる範囲が広い |
損益通算できる所得 |
4種類 |
10種類 |
赤字の繰り越し |
3年間繰越せる |
7~9年間繰越せる |
給与 |
出せない |
出せる |
会計・経理 |
個人の確定申告(簡単) |
法人決算書・申告(税理士が必要) |
受取配当金 |
5%or15%の配当控除あり |
20%が益金不算入 |
決算期 |
12月(確定申告) |
自由に決められる |
節税対策 |
できる |
個人より多い |
相続税対策 |
できる |
個人より多い |
やはり1番の違いは、先ほどもお話しした経費計上の面です。法人になると経費として使えるものが増えます。結果として節税しやすくなるわけです。経費の他にも、損益通算の期間、赤字の繰越等もできるようになります。中期的に税金を抑える動きが、法人の方が取りやすくなると言えます。
ただし、法人化にはメリットだけでなく、デメリットもあります。メリット・デメリットを踏まえた上で、設立を検討するようにしましょう。
法人(資産運用会社)設立のメリット・デメリット
個人から法人になることで、税金面のメリットをお伝えしましたが、法人には運用維持のための労力や費用がかかります。お金の面はメリットだけでなく、出て行くお金も考えた上で設立を検討する必要があります。
そのためには、資産運用会社を設立するメリットとデメリットをまずはしっかり把握するようにしましょう。
資産運用会社設立のメリット6選
1:税金対策
すでにお話ししたとおり、法人は個人より経費として計上できる項目が増えることから、税金対策がしやすくなるメリットがあります。不動産投資などで得た利益に対して経費を適切に使うことで、支払う税金をコントロールすることができると言うわけです。
2:経費計上が有利になる
法人設立することで、会社としての運営に必要な費用が経費として認められるようになります。個人の場合は、あくまでも資産運用にかかわる費用のみ経費として認められるわけですが、法人の場合は、法人運営のための費用が経費として認められます。例えば、会社で使う備品や、仕事に必要な通信費などが経費として計上できます。
他にも、給与などもそうです。家族を役員にすることで、役員報酬を経費として計上することもできるようになります。保険などもそうですし、今住んでいる住まいを会社名義にすると、社宅として、これも経費として計上できるようになります。
3:損益通算できる項目が10種類に増える
個人投資家の場合は損益通算できる項目は4種類ですが、法人だと10種類に増えます。中でも投資に関わる部分で、株式投資、FXなどの金融関係の損失が出た場合、そのマイナスを損益通算できることは、投資家にとって大きなメリットと言えます。
4:繰越控除ができるようになる
法人になると、最大9年間損失を繰越できるようになります。例えば赤字が出た年度があれば、その赤字分を最大9年間にわたって繰り越すことができるようになるんですね。
年間200万円の赤字が出た翌年に100万円の利益が出たとしたら、繰越控除を行うことで、この年の利益を0円にすることができます。翌年も同様に100万円を繰越することができます。
個人の場合はここまでの繰越ができないので、法人だと繰越控除を見越して投資することも可能になります。
5:個人・法人双方で株主優待利益を受け取れる
これは株式投資、会社の株を持っている人のみ当てはまる話ですが、法人を持っていることで個人・法人双方で株主優待利益を受け取れるようになります。例えば、法人としてであればどれだけその会社の株を持っていても、優待を2倍受けられるようにならないのですが、個人と法人と分けて株を保有していると、優待を2倍受けられるようになります。
6:個人口座と法人口座を別々で持てる
株主優待のメリットに似ていますが、法人を持っていると個人口座、法人口座2つの口座を持つことができます。例えば株式投資を行っている人で、IPO株など狙う人であれば、口座が2つあると当選確率が上がるので、これも大きなメリットだと言えます。
IPO株はほとんどの場合抽選での購入となります。個人口座、法人口座の2つの口座があれば、個人だけだと1口だけの抽選になるところ2口抽選できるので、単純に当選確率も2倍になります。株式投資などの資産運用を行っている人にとって、これはとても魅力的なメリットと言えるはずです。
資産運用会社設立のデメリット4選
1:設立費用がかかる
資産運用会社などの法人を設立するためには、費用がかかります。どのような形式の法人にするかによっても変わりますが、例えば株式会社を設立するとなると、法定費用として30万円ほど必要となります。以下は主な内訳です。
項目 |
費用 |
定款の認証手数料 |
50,000円 |
定款の謄本手数料 |
2,000円 |
設立にかかる登録免許税 |
150,000円 |
収入印紙代 |
40,000円※ |
会社実印作成 |
5,000円~ |
設立時に必要な個人の印鑑証明取得費 |
300円×必要枚数 |
設立した会社の登記簿謄本の発行費 |
500円×必要枚数 |
合計 |
約30万円 |
多くの場合、会社設立の手続きなどは専門家に依頼することになると思います。上記はその費用となるわけですが、自分で行う場合は安く済ませることも可能です。専門家への依頼は、依頼する人によって費用は変わってくることも頭に入れておきましょう。
法人設立時の定礎は、会社として成長、拡大していく上で大切な要素となりますので、事業拡大を視野に設立する場合は、きちんとした専門家に依頼して作成してもらうようにしましょう。
2:社会保険の加入義務
個人の場合は、国民健康保険、国民年金を払うことになりますが、法人になると健康保険、厚生年金などの社会保険への加入が義務付けられるようになります。ただし保険料は会社と個人半々で負担することになるわけですが、自分の会社の場合は、実質全て自分で負担することになります。
ただし実際には一人社長の場合は、国民健康保険、国民年金を支払う形でも今のところ特に問題ないようです。ですが、国も税収を徴収することに力を入れているため、この辺りは今後どうなるかはわかりません。税金面の負担額などによっても、法人設立におけるメリットの感じ方は変わってくるかもしれませんね。
3:会社運営費用がかかる
会社設立時には約30万円の費用がかかることをお話ししましたが、設立時だけでなく、その後の運用にも幾らかの費用はかかることになります。一人社長で規模の小さな会社だとしても、税金の申告時に住民税の均等割で約7万円の支払いが発生します。最低でも年に7万円の費用がかかることになるわけです。
会社の運営にはその他にも費用がかかる項目があります。そのうちの1つが税理士報酬です。法人化すると、決算申告を行う必要が出てきますが、規模の小さな会社であっても、自分で行うのは現実的ではありません。税理士に任せることになると思いますが、そのための費用として年間10~50万円程度は見ておく必要があります。
4:評価益に課税される
法人と個人とで課税対象も変わります。個人事業主の場合は、株やFXに対する譲渡益(売却益)が課税対象となります。これが法人の場合は、評価益も課税対象として含まれるようになります。株やFXを売却して利益を得た時だけでなく、ただ持っているだけでも購入時より価格が上がると、それが課税対象となってしまうわけです。
評価益は、決算期に保有している株やFXの時価評価で確認を行います。購入した時の価格よりも上がっている場合は、評価益として算出され、ここに税金がかかってくることになります。もちろん、最終の売却時の譲渡益次第では、評価益として支払った金額から差し引きして戻ってくることになるわけですが、売却せずとも保有していることで税金が発生するのは、個人と法人との大きな違いです。
資産運用会社の設立はメリットか?デメリットか?
ここまで法人設立のメリット、デメリットをそれぞれ見てきました。確かに法人化することでかかる費用が増えたり、税金の対象になるものが増えたりすることもありますが、トータル的に見ると、多くの場合、法人化による恩恵の方が大きくなると思います。
「多くの場合」とお答えしたのは、人によってはメリットよりデメリットの方が大きくなることもあるからです。例えば、前述の通り900万円以下の人であればそもそもメリットはありませんし、税金面が有利になっても会社設立・運営の手間が多大な労力になってしまう場合は、その人にとってはメリットと言えないかもしれません。
確実にお勧めできるのは、高い税金をなんとかしたい、安く抑える方法を探しているという人です。会社設立となると、調べることややることも多くあるわけですが、専門家に依頼するなどすれば、さほど手間をかけずとも実現可能です。法人化することで、ネットワークが増えればより情報が入るようになりますし、投資、資産運用面でも良い影響が得られます。
ただし資産運用会社を設立するとなっても、具体的にどうすればいいのかわからない人も多いかもしれません。そこで次に、法人設立に必要なことをステップに分けて解説していきたいと思います。
資産運用会社設立の9ステップ
まずお伝えしておきたいのは、会社設立と言っても、資産運用会社として法人を立ち上げるのであれば、思うより難しくないということです。会社を運営するというより、法律上、書類上の手続きを済ませるイメージで考えると、より簡単に考えることができるかもしれません。
ここでは法人設立にどんな手続きが必要なのか、全部で9つのステップに分けて解説します。
ステップ1:定款、会社実印を作成する
作成にかかる費用は約30万円ほど。
(専門家に依頼する場合は10万円〜の費用を見ておく必要があります。)
ステップ2:資本金を決める
資本金をいくらにするか決める。
(資本金が多いと法人税の負担も増えるため、1000万円以下が推奨)
ステップ3:資本金を支払う
資本金を法人口座に振り込む。
ステップ4:設立登記する
会社の本店所在地の管轄となる法務局へ申請。
(資本金を支払い終えていれば申請で完了。登記申請日=会社設立日)
ステップ5:履歴事項全部証明書、印鑑証明を取得する
上記2種類の書類を法務局で取得する。
(登記直後は取得不可。一週間程時間をおいて法務局に確認すること。郵送も可能)
ステップ6:設立時貸借対照表、設立時株主名簿を作成する
法人設立に必要な書類の作成。
ステップ7:税務署に法人設立届を提出
ステップ6で作成した書類を税務署に提出。税金関係の書類を受け取る。
ステップ8:銀行口座を開設
法人口座を銀行で開設する。
(まずは地銀や楽天銀行がお勧め。定款の内容により、投資目的の法人はメガバンクの審査が通りにくい。そのため地銀、楽天銀行がお勧め)
ステップ9:証券口座を開設
証券会社に証券口座を開設する。
(どの証券会社に口座を作るか考える。起業したばかりは決算書の審査が受けられず、信用取引・FX・オプション取引等ができない場合があるので要確認)
上記9つのステップですが、主に事務手続き的な内容が多く、ステップの多さの割にそこまで難しくはありません。おおよそ1ヶ月~2ヶ月で完了できる内容です。
最も時間がかかるのは、定款の作成です。ここもお話ししたとおり、今後事業の拡大、会社の規模拡大を目指す人は、専門家に依頼するなどして、しっかりしたものを作成しておくことをお勧めします。
資産運用会社を設立のメリット・デメリットのまとめ
資産運用会社の設立は、課税所得が900万円を超えるようになってから考えましょう。不動産投資を投資、事業として拡大させながら、税金なども対策していくためには、資産運用会社の設立は重要なポイントになります。
目安の収入ラインは900万円。まずはここを目指しながら、収入や事業規模のステージに応じて、適切な税金対策を行うようにしましょう。年収900万円と言われるとハードルが高く感じる人もいるかもしれませんが、不動産投資をうまく進めることができれば、割とすぐに達成できる収入ラインでもあります。税金対策の前に、対策の効果が期待できるレベルまで不動産投資の収入を増やしていきましょう。